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最高裁判所第二小法廷 昭和60年(オ)109号 判決 1989年7月14日

主文

一  上告人の本訴請求のうち、金沢地方裁判所が同庁昭和五三年(ケ)第一三三号不動産任意競売事件について作成した第一審判決別紙(一)の支払表の支払順位2の被上告人に対する支払額を一二九八万二九一七円に、支払順位3の上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円に変更することを求める請求に係る部分につき、原判決を破棄し、右破棄部分を名古屋高等裁判所に差し戻す。

二  その余の本件上告を棄却する。

三  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人林武夫の上告理由について

一  原審が確定した事実関係は、次のとおりである。

1  株式会社マツムラ(以下「マツムラ」という。)はカンカンパリ(後記第一審判決別表A、B及び同別紙債権現在額表における整理番号一二一二、後に「ラブラブ」と改称)、ベルバラ(同一二四一、後に「ビーナス」と改称)、ベルバラ三号(同一二四三、後に「クインビー」と改称)、シンデレラ(同一三五七)及びムーラン(同八八一三)なる店名のカフェー、サロン又はスタンドバーを経営し、右各店舗における飲食行為に係る料理飲食等消費税(昭和六三年法律第一一〇号による改正前の地方税法第六節に規定するもの。以下「料飲税」という。)の特別徴収義務者として指定された者であり、三栄観光企業有限会社(以下「三栄観光」という。)は、カンカンパリ二号(同一二一四、後に「楊貴妃」と改称)なる店名のカフェーを経営し、右店舗における飲食行為に係る料飲税の特別徴収義務者として指定された者である。

2  松村宏茂(以下「松村」という。)は、右マツムラ及び三栄観光の各代表取締役であって、右両会社の経営する前記各店舗における飲食行為に係る料飲税の特別徴収義務者として指定された者であり、右各会社とそれぞれ連帯して右料飲税に係る地方団体の徴収金を被上告人に納入する義務を負う者である。

3  マツムラは、その経営する前記各店舗に係る第一審判決別表A(一)、(二)(但し、原判決により一部訂正後のもの)記載の料飲税について、納入申告書を被上告人の金沢県税事務所長に提出し、右料飲税に係る地方団体の徴収金の法定納期限等(地方税法一四条の九第一項参照。以下同じ。)は同表該当欄記載のとおりであるところ、昭和五六年五月二二日現在において、同表該当欄記載の料飲税、加算金及び延滞金を滞納していた。また、三栄観光は、その経営する前記店舗に係る第一審判決別表A(三)記載の料飲税について、納入申告書を同県税事務所長に提出し、右料飲税に係る地方団体の徴収金の法定納期限等は同表該当欄記載のとおりであるところ、前同日現在において、同表該当欄記載の料飲税及び延滞金を滞納していた。しかし、松村は、前記各料飲税について、納入申告書を提出しなかった。

4  被上告人の前記県税事務所長は、前記各店舗に係る料飲税の特別徴収義務者である松村に対し、昭和五二年六月一八日に第一審判決別表B(一)記載のとおりの、同年九月八日に同表B(二)記載のとおりの、昭和五三年二月二〇日に同表B(三)記載のとおりの、同年七月一九日に同表B(四)(但し、原判決により一部訂正後のもの)記載のとおりの各料飲税を、それぞれ同人が納入義務を負担する税額とする旨の地方税法一二四条二項に基づく各決定をし、これと併せて、昭和五二年六月一八日には同表B(一)記載のとおりの、昭和五三年七月一九日には同表B(四)記載のとおりの各加算金を、それぞれ同人が納入義務を負担する加算金額とする旨の同法一二七条四項に基づく各決定をした。そして、各決定日に右各決定に係る料飲税及び加算金をそれぞれ記載した決定通知書兼納入告知書を発し(昭和五二年六月一八日に発した決定通知書兼納入告知書には同表B(一)記載のとおりの、昭和五三年二月二〇日に発した決定通知書兼納入告知書には同表B(三)記載のとおりの各延滞金も記載されていた。)、右各書面は、昭和五二年六月二〇日、同年九月九日、昭和五三年二月二一日、同年七月二二日に順次松村に到達したところ、右各決定は不服申立なく確定した。

5  上告人は、松村所有の土地建物(以下「本件不動産」という。)につき、昭和五三年四月二八日設定登記に係る抵当権(以下「本件抵当権」という。)を有していたところ、上告人の申立により、同年九月二五日本件不動産について本件抵当権に基づく競売開始決定がされた(金沢地方裁判所昭和五三年(ケ)第一三三号競売申立事件)。

6  被上告人は、松村に対し地方税法所定の督促手続をした後、右開始決定に先立つ昭和五三年六月五日前記各店舗の昭和五二年度三月分から同年度一一月分までの料飲税に係る地方団体の徴収金につき本件不動産を差し押さえ、更に、右開始決定後の昭和五三年一〇月九日前記各店舗の昭和五二年度一二月分から同五三年度五月分までの料飲税に係る地方団体の徴収金につき参加差押えの手続をした。競売裁判所(金沢地方裁判所)は、昭和五四年一月一八日右競売手続続行決定をし、被上告人は、同月二九日競売裁判所に対し、以上の料飲税に係る地方団体の徴収金(以下「本件徴収金」という。)につき交付要求をした。

7  競売裁判所は、昭和五六年六月一一日を配当期日として指定した。上告人は、本件抵当権の被担保債権の額を一六八九万二二一一円とする計算書を提出し、被上告人は、本件徴収金の現在額合計を二五九一万二七四五円とする債権現在額申立書(その内訳は、第一審判決別紙債権現在額表(但し、原判決により一部訂正後のもの)記載のとおりである。)を提出したが、競売裁判所は、本件徴収金のうち、右債権現在額表の法定納期限等欄記載の日付が本件抵当権設定登記の日である昭和五三年四月二八日より前である料飲税、加算金、延滞金合計二一七三万二一六二円(同表三枚目太線までの分、以下「本件料飲税債権」という。)は、上告人主張の右被担保債権に優先して配当されるべきものであるとして、被上告人に対する支払額を二一七三万二一六二円とし、上告人に対する支払額を三五七万四七二七円とする第一審判決別紙(一)の支払表(以下「本件支払表」という。)を作成したところ、上告人は、右配当期日において、被上告人に対する配当全部について異議を述べた。

二  本訴において、上告人は、本件抵当権の被担保債権の額は一六六一万四〇八〇円であるとした上、被上告人が主張する本件料飲税債権は存在せず、上告人は右被担保債権全額につき配当を受けるべき権利を有する旨主張して、本件支払表中、支払順位2の被上告人に対する支払額を〇円に、支払順位3の上告人に対する支払額を一六六一万四〇八〇円に変更することを求め、なお、本件料飲税債権が存在するとしても、このうち昭和五三年七月一九日に松村に対して前記決定通知書兼納入告知書が発せられた税額及び加算金額並びに右税額に対する延滞金額の合計額八七四万九二四五円(前記債権現在額表に昭和五二年度一二月、同一月及び同二月分として表示された税額、加算金額及び延滞金額の合計額。以下「本件債権部分」という。)は、右被担保債権に劣後するものであるから、少なくとも、被上告人に対する支払額を一二九八万二九一七円に、上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円に変更すべきであると主張した。

三  原審は、前記のとおり被上告人主張の本件料飲税債権二一七三万二一六二円が存在することを確定した上、前記の事実関係のもとにおいて、松村に対して地方税法一四条の一〇を適用する場合、同条の法定納期限等とは、松村に対し納入告知書を発した日ではなく、マツムラあるいは三栄観光の申告による法定納期限等と解するのが相当であるとし、被上告人の松村に対する本件料飲税債権は全額上告人主張の被担保債権に先立って徴収することができると判断して、右被担保債権の存否について判断することなく、上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし、これと同旨の第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。

四  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

地方税法一四条の一〇は、いわゆる地方税優先の原則と担保物権公示の原則との調整の観点から、地方税債権と抵当権の被担保債権との優先劣後につき、「納税者又は特別徴収義務者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その地方団体の徴収金は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。」と規定しているところ、料飲税に係る地方団体の徴収金の法定納期限等についてみるに、料飲税については、地方税法(昭和六三年法律第一一〇号による改正前のもの)一一九条二項所定の期限以前に納入申告書を提出したことにより税額が確定した場合においては、右期限が法定納期限等となる(地方税法一四条の九第一項各号列記以外の部分)が、右期限後に税額が確定した場合においては、それが期限後申告によるときには、その申告があった日が、それが地方税法一二四条二項の決定によるときにはその納入告知書(同法一三条一項)を発した日が、それぞれ法定納期限等となり(同法一四条の九第一項一号)、加算金、延滞金については、その徴収の基因となった料飲税の法定納期限等がその法定納期限等となる(同項各号列記以外の部分)ことが明らかである。そして、地方団体の徴収金の連帯納入義務については、連帯債務に関する民法四三二条から四三四条まで、四三七条及び四三九条から四四四条までの規定を準用するものとされているところ(地方税法一〇条)、連帯納入義務者の一人について生じた税額確定の効力は、他の連帯納入義務者との関係において絶対的効力を生ずるものではなく、民法四四〇条の準用により単に相対的効力を生ずるにとどまるものであって、連帯納入義務者に対する税額確定の手続は、連帯納入義務者ごとに各別に行われることを要するものと解するのが相当であるから、地方税法一四条の一〇を適用する場合における法定納期限等もこれに応じて各連帯納入義務者ごとに相対的に定まるものというべきである。

これを本件についてみるに、原審の適法に確定した前記の事実関係によれば、マツムラ及び三栄観光並びに松村は、本件徴収金につき、ともに特別徴収義務者として連帯納入義務を負担しているものであるところ、マツムラ及び三栄観光は、所定の納入申告書(一部期限後申告)を提出し、その都度、税額は確定していたのであるが、松村は納入申告書を提出しなかったというのであるから、同人との関係においては、前記地方税法一二四条二項に基づく各決定によりはじめて税額が確定することになったものといわなければならない。したがって、本件徴収金につき、マツムラ及び三栄観光との関係での法定納期限等は、本来の法定納期限(一部期限申告のあった分については、当該申告の日)ということになるけれども、このことは、なんら松村との関係で税額を確定し、かつ、法定納期限等を右と同時期とみるべき効力を生じるものではなく、同人との関係における法定納期限等は、あくまでも、同人に対する税額を確定させる効力を有するものとしてされた前記各決定の通知書兼納入告知書を発した日と解すべきことは前記の説示に照らして明らかである。そうすると、本件抵当権の設定登記の日である昭和五三年四月二八日の段階においては、松村に対する昭和五二年六月一八日、同年九月八日及び昭和五三年二月二〇日の各決定に係る決定通知書兼納入告知書は発せられていたものの、未だ同年七月一九日の決定に係る決定通知書兼納入告知書は発せられていなかったのであるから、本件徴収金の一部である本件料飲税債権のうち前三決定に係る部分である一二九八万二九一七円は本件抵当権の被担保債権に優先するものとして、被上告人においてその額の配当を受けるべきものであるが、同年七月一九日の決定に係る部分(本件債権部分)は、右被担保債権に次いで徴収すべきものであり、したがって、上告人主張の右被担保債権が存在するのであれば、上告人は、本件支払表の支払順位3に記載された上告人に対する支払額三五七万四七二七円に本件債権部分の額を加えた一二三二万三九七二円の配当を受けることができるものといわなければならない。

以上によると、右被担保債権と本件料飲税債権との優先劣後を決すべき基準である松村に関する本件徴収金の法定納期限等は、同人に対して納入告知書を発した日ではなく、マツムラ又は三栄観光のした納入申告に基づく法定納期限等であると解した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、原判決中、本件支払表の変更を求める上告人の本訴請求のうち支払順位2の被上告人に対する支払額を一二九八万二九一七円とし、支払順位3の上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円とする限度でこれを変更することを求める請求をも棄却すべきものとして上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れない。論旨は、右の限度において理由があるが、本訴請求のうち上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円を超える額に変更することを求める請求を認容する余地はないから、原判決中、右請求を棄却すべきものとして上告人の控訴を棄却した部分は正当というべきであり、この部分に関する論旨は理由がない。そして、記録に照らすと、上告人主張の前記被担保債権の存在については当事者間に争いの存することが窺われるところ、原審がこれについて判断をしていないことは前記のとおりであり、したがって、右破棄部分については、右の点について判断を加えた上、前記の説示に沿って上告人の右請求の当否を判定すべく、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島 昭 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)

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